目に青葉 山ほととぎす初鰹コイゴコロ続編 kinako様vv



   2




ルフィはゾロの家へ向かっていた。
それはもう、わき目も振らず真っ直ぐに。

心変わりしたのなら、それはそれで仕方のない事だし、それならいっそ、きちんと話を聞いてケリをつけた方が良い。
今みたいなどっちつかずな状態には耐えられないと思ったから。

ただ、新しい彼女の前で殴られるのは嫌だろうし・・・その時は日を改めて殴りに行こう、と、ルフィは心に決めていた。


と、そこへ―――ポケットの中の携帯が、聞き覚えのある着信音を奏で始めた。
ゾロ専用に設定した着信音。
かけてもかけても繋がらなかった電話が、さも何事もなかったかのように、今この事態に向こうからかかってくるとは。
痛む胸を押さえながら、ルフィは携帯のボタンを押した。


「・・・・・もしもし・・・ゾロ?」
「あ、ルフィか?今日のお前の・・・―――」
「俺、今からゾロん家行くから」
「は?」


ゾロの話も聞かず、こちらの用件のみを伝える。
少し固くなった口調は、電話の向こうのゾロを困惑させたようだが、そんな事には構わず一気にまくし立てる。


「今からゾロん家行くから。絶対いろよ」
「ちょっと待て。俺は今、外からかけてるんだぞ?俺の方がお前ん家行くから・・・―――」
「家に行っちゃ、マズイのか?」
「・・・っ」


電話の向こうでゾロが息を飲む気配がした。
“あぁ、やっぱり”と更に胸が痛んだが、ルフィは一気に歩調を速めた。


「今から行く!やっぱり何かマズイ事あんだろ!?」
「いや、待て!マズイとかじゃねぇけど・・・―――」
「うるさい!!行くったら、行く!!」


そんな現場に乗り込んだところで、自分が惨めなだけなのに、それでも確かめずにいられなかった。
本当は信じたくなんかなかったから。
今でもやっぱり、嘘だと思ってるから。







「どなたですか?」
「・・・・・・・あれ?」


息を切らして、ゾロの部屋のインターフォンを押したら、返ってきたのは、聞き覚えのない男の人の声だった。
思わず間違ったのかと部屋番号を確認する―――が、確かにゾロの部屋だ、間違いなかった。


「あの・・・ゾロ・・は?」
「あぁ、ゾロなら生憎今は留守で・・・まぁ、せっかくなのでどうぞ」
「いや・・・えと・・・」


ゾロが家にいないというのは嘘じゃなかったらしい。
ただ、予想外の展開に戸惑いは隠しきれなかった。
わたわたと躊躇っているうちに、オートロックを解除する音が響いてドキリとする。
せっかく上がって来いと言われたのに、このまま帰るのは失礼だろうか。
そう思いながら、ルフィは何が何だかわからないまま、ゾロの部屋へと足を向けた。



「友達が訪ねてくるとは珍しい。さぁ、どうぞ」
「お邪魔・・しま・・す」


出迎えたのは、海外赴任しているゾロの父親だった。
連休の為休みをとって、久しぶりに日本の地へと舞い戻ってきたのだという。
こうして見ると、やっぱりゾロに似ていて、ソファに向かい合わせに座られると、どうにも落ち着かない。
そんなルフィに構わず、それどころか何やらルフィの顔を嬉しそうに眺めると、キッチンへと声を掛けた。


「マキノさん、コーヒーを淹れてもらえますか?」
「はい。ただいま」


やがて、控えめに女の人が入ってきて、コーヒーとお菓子をルフィの目の前に出し、一礼して出て行く。
その様子にポカンと口を開けているルフィに、ゾロの父親は小さく笑う。


「あの人は、通いの家政婦さんなんですよ。私がいる間だけ来てもらってます」
「はぁ・・・」
「こうでもしないと、まともな食事にありつけませんからね」


“確かに、ゾロは毎日コンビニ弁当ばっかだしな”と思いながら、ルフィはコーヒーを啜った。
サンジが見たという女の人は、きっとあの人の事だろうと一気に納得できた。
浮気していたワケではないと分かって、ホッと胸を撫で下ろしたものの、それではここ最近のゾロの行動に疑問が残る。
不自然だったのは事実だから。


「ゾロ・・・は?」
「あぁ、アルバイトですよ。“今日は寄るところがある”と言ってたんで、まだ帰って来ないかもしれませんが」
「バイト?」
「ええ。なんでも、親から貰った小遣いではなく、自分のお金で買いたい物があるらしい」


ゾロが自分の力で手に入れたかった物・・・?
そんな話は聞いた事が無かった―――ただの一度も。
先ほどホッとしたのも束の間、自分が知らないゾロの姿にまた少し胸が痛んで、切なくなった。


「君は―――ルフィくんだね?」
「え・・・?」
「一度、顔を拝見したいと思っていたところでした。会えて良かった」
「なんで俺の事・・・知ってるんですか・・・?」
「この子の名前の由来を聞きました」
「あ・・・―――」


その手には、小さな白い毛玉―――子猫のルフィが抱かれていた。


「とても大切な人の名だと、ゾロはそう言いましたよ」
「それは・・・」
「男の子だというので・・・実はちょっと驚いたのですが、それ以上に驚かされたのは、ゾロが私と“会話”をしてくれた事です。もう何年ぶりだったでしょう」


そう言ってルフィを見つめる父親の目は少し潤んで、ゾロを・・・我が子を愛しいという心からの思いが感じられた。


「小さい頃からろくに遊んでやった事もなく、ましてや親子喧嘩をした事もない。ただ、お金だけを与えて、大きく育っていく様を遠目に見ていただけで・・・」
「・・・・・・・・・・」
「私も父親になりきれていなかったのだと思います。どう接すれば良いか、分かっていなかったのだと、今更ながら気付きました」
「おじさん・・・」
「ですが、今回ゾロを見て驚きました。君が多大な影響を与えてくれた」
「そんな、俺は・・・―――」



「ゾロは、誰かを愛するという事を覚えました。これは、凄い事ですよ」



ゾロは、本当に俺の事を好きでいてくれるんだろうか。
もしかしたらそのうち、俺よりずっと好きな人が出来るかもしれない。

言葉にする事は無かったけれど、ほんとはずっと不安で不安で仕方なかったのに。


「俺、ゾロが好きです」
「有難う」
「良いん・・・ですか?」
「良いも何も、ゾロが決める事だ。そして、ゾロは君を選んだ」


“あの子を宜しくお願いします”と頭を下げられて、ルフィはぽろぽろと涙を零した。







「何、泣かしてくれてんだ」


電話での只ならぬルフィの様子に焦りつつ大急ぎで帰ってみれば、父親と向かい合わせに座りボロボロと泣いているルフィがいた。
ゾロは眉間の皺を普段の3割増しくらい深くして、父親を睨みつけた。


「おや、ゾロ」
「“おや”じゃねぇ!なんでコイツが泣いて・・・―――」


次の瞬間、ゾロは息を呑んだ―――ルフィが、声も無く胸にしがみ付いて泣き出したからだ。


「おい・・・ルフィ?あのクソ親父が何か言ったのか?」
「ゾロ・・・なんて人聞きの悪い・・・」
「うるせぇ!親父は黙ってろ!!」


何だかよく分からなかったが、ルフィが泣くという事自体珍しい事なので、ゾロは焦った。
ルフィは顔を上げる気配もなく、しがみ付いて離れないばかりか、父親はニッコリと微笑んでさえいる。
その様子から、ルフィが辛くて泣いているワケではないという事が分かってホッとしつつ、ぎゅっとルフィを抱きしめた。

胸の辺りでルフィのくぐもった声がする。
“どこ行ってたんだー”とか“バイトの話なんか聞いてねぇー”とか、何やら一杯ごにょごにょと。
ゾロは小さく笑うと、ポケットに手を突っ込んだ。


「ルフィ・・・誕生日おめでとう。これ買おうと思って、バイトしてたんだ」


驚いて顔を上げたルフィの手に、そっと小さな箱を乗せる。
驚きで更に見開いた目から、ぽろりと涙が零れ落ちた。


「内緒事なんて・・・ずりぃぞ・・・」
「悪かったよ・・・な、ルフィ?」
「俺、会いたかったのに・・・」
「あぁ、悪りぃ」


久しぶりの温もりを抱いて、愛しさで胸が一杯になる―――とはいえ、このまま親の前で抱き合ってるのも居心地が大変悪い。
ゾロは慌ててルフィを抱き上げると、そのまま部屋に飛び込み、しばらく出てこなかった。








その後ルフィは、パーティの準備も整った自宅へ、ゾロを連れて帰った。
事の真相を聞かされたナミは、ゾロの顔を見るなりこっ酷くいびり倒した。


「大体、アンタが“黙っててカッコつけよう”なんて考えるからいけないのよ」
「わざわざ言う事もねぇと思っただけだ」
「その所為で、ルフィ泣かしてちゃ意味ないわよ」
「う゛っ・・・」


そりゃそうだ、ルフィに内緒にするのは分かるが、せめてナミやサンジに真相を話しておけば、ここまで拗れる事は無かったのだから。


「ゾロは罰として、これから1ヶ月、ルフィに会うのを禁止だからね!」
「えー・・・そんなの俺にも罰になるじゃんかー!ヤダー!」
「あらら・・・それじゃ意味ないわね・・・苦しむのはゾロだけで良いんだもの」
「お前・・・」


すっかり目の仇にされ散々な目に遭わされているゾロを尻目に、ルフィはサンジが用意してくれたご馳走に舌鼓を打ってご機嫌だった。
憂いも晴れ、ゾロが自分だけを思っていてくれていると分かった以上、何も悩む事などない。
ならば、今この目の前にある幸せに浸って、何が悪かろう。

だって今日はルフィの誕生日なのだから。



「ねぇ、ルフィ。ゾロからのプレゼントって、一体何だったの?」
「んー?ダメ、教えない」
「良いじゃねぇかよ〜・・・なんだ?あのマリモの選んだ物っつーのは?」
「内緒ー」
「教えなさいってば!」
「いーやー」
「なんで隠すんだよ?」
「内緒は内緒なんだもーん」


しししと笑うルフィの首には、キラリと光るチェーンが掛かっていた。
服の下に隠れているけれど、チェーンの真ん中には、プラチナのリングが通してある。


「勿体ないから言わなーい」


ゾロがくれた物は、指輪と、ゾロ自身―――そして、ゾロの未来。


ルフィはそっと目配せをして、テーブルの下でゾロの手をぎゅっと握った。


end


何とか(というか、無理矢理)お誕生日ネタで書きました。
お待たせしすぎて誰も待ってないとは思うのですが、ル誕DLFです。
こんな物ですが、宜しければお持ち帰りくださいませ(願)

2006.05.31up(ギリギリ;)


*ひゃ〜〜〜vv
 相変わらずにルフィが可愛いvv
 しかも、しっかり男の子なのがお素敵ですvv
 浮気をしたならしたできっちり白状せんかいと怒り出すところが…vv
 ありがたく頂戴いたしました、ありがとうございますvv
 大切に読みますね? 嬉し〜いvv

*kinako様のサイトheart to heartさんはコチラvv ***

back.gif